【どう変わる英語教育】〜第2回〜英語教育はどのように変わっていくのか

第2回 英語教育はどのように変わっていくのか

英語教育の内容が変わる

第1回「英語教育改革の背景と経緯」の最後で、今回の教育改革の大きな特徴は学校段階ごとに別々に改革するのではなく、すべての学校段階を「一体的に改革」しようとしている点にあるとお話ししましたが、実は英語教育はまさにこの一体的改革の典型ともいえる例です。

第1回で掲載した図でもご説明した通り、今回の改革は小・中学校と大学教育の改革が先行し、高校と大学入試の改革で一つの流れとなって繋がります。

そして、各学校段階の教育内容のうち、英語についてはすべての段階で(そして、大学入試においても)、「英語4技能重視」の方針が貫かれています。

「英語4技能」とは何でしょうか。日本の英語教育は、従来「読む」「書く」を中心に進めれてきました。それは、これまで日本人にとって英語とは学問や技術が進んでいる欧米からその知識を吸収するために必要な道具であったため、英語の技能については「読む」技能が最も重要であり、次いで必要最低限のコミュニケーションに必要な「書く」技能がそこそこあれば事足りたからです。

ところが、インターネットの発達をひとつの契機とする世界のグローバル化の進展は、日本人のあるべき英語力に大きな変化をもたらしています。

ご存知のように、インターネットはそれまで人と人との交流にとって大きな障壁となっていた距離や時間の壁を取り去りました。世界のどこにいても、世界のどことでも、いつでも瞬時にコミュニケーションできるようになったのです。インターネットによるコミュニケーションの変化によって、これまでのような文字を介したものだけでなく、映像によるコミュニケーションすら可能になりました。“face to face”、世界の誰とでもリアルタイムに顔を合わせながら会話できるのが、インターネットの特徴です。こうなるとコミュニケーションは、公式な場合の文書による通信の場合を除いて、会話が中心となります。つまり、日本国内にいても、英語による会話の能力が必要になってきたのです。さらに、外国人の日本渡航者が年々増え続け*1、いまや地方の都市や観光地でも外国人を見かけることが珍しくなくなっています。政府は観光を今後の重要な産業と位置づけ、一層力を入れる方針ですから、日常的に外国人と接する機会はさらに増えていくでしょう。気軽に「おもてなし」をしようと思うならば、英語で会話できたらとても便利です。

このような環境の変化に対応するためには、英語教育全体の方向性を大きく変えていく必要があります。つまり、これまでのような「読む」「書く」中心の英語教育から、「話す」「聞く」を中心として「読む」「書く」を加えた英語の4つの技能をバランスよく育てていく方向に転換していかなければならないのです。これが「英語4技能重視」です。

英語の見方が変わる

この4技能重視の方針に沿って、英語教育全体の改革が既に始まっています。(下図参照)

 

「読む」「書く」は知識を土台に高めることができる技能ですが、「話す」「聞く」は経験の量(慣れ)が必要な技能です。そこで、これまでは中学校から始まっていた英語の授業を小学校からに繰り上げ、「体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う」(小学校学習指導要領)ことを目的にした「外国語活動」が2011年度から小学校5・6年生を対象に始まりました。ここで、経験を中心にするという意味合いで「外国語活動」という名称を用いているのは、知識習得も重視する教科としての「英語」と性格が違うことを表していますし、内容も「聞くこと」「話すこと」が中心となっています。

2018年度から、小学校では新しい学習指導要領の先行実施が始まります。(いわゆる「新課程」です。全面的な実施は、2020年度からになります)この段階で小学校の英語は、現在の「外国語活動」が3・4年生(中学年)に繰り上がり、5・6年生(高学年)については、教科としての「英語」に変わります。5・6年生については、従来中学校で学んでいた内容の一部も扱われるようになります。

中学校や高校の英語についても、既に4技能が重視されています。その効果を高めるために、中学校や高校では英語の授業は日本語を使わない「英語だけで行う授業」が原則(中学校では「基本」)とされています。そして、新しく始まる2つのテスト、つまり「高校生のための学びの基礎診断」(2019年度開始予定)と「大学入学共通テスト」(2020年度開始予定)でも、英語の試験ではいずれも4技能を問うこととなっています。

さらに大学教育についても同様の方向に動き出していて、多くの大学では英語の学習目標としてTOEFL(トフル)やTOEIC(トイック)といった民間の4技能資格の取得を上げています。

このように、日本の英語教育は「早期化」と「4技能化」を同時に進めていこうという改革の流れの中にあって、英語そのものの見方から変えていこうという大きな転換期を迎えているのです。

*1:2015年度、日本を訪れた外国人旅行者は年間1,974万人で10年前の2.7倍。一方、海外を旅行した日本人は年間1,621万人で、10年前の92%であった。(観光庁調べ)

(第2回 おわり)

第3回:小学校の英語教育はどのように変わるのか

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