大学入試「英語4技能試験」のゆくえは?2019年時点の活用パターンから考察

2021年1月実施の大学入学共通テストにおける英語民間4技能試験の導入は延期されました。全4回でお届けする「大学入試『英語4技能試験』のゆくえは?」コラムでは、文部科学省が立ち上げた大学入試のあり方検討会議の様子や、想定される今後の方向性を解説してきました。

最終回となる本コラムでは、これからの大学入試において英語民間4技能試験がどのような役割を担っていくかの予想と共に、中高生の皆さんが今後英語4技能試験と向き合う際のヒントをご紹介します。

大学入試における英語民間4技能試験の位置づけ

下図は、共通テストの枠組みで英語民間4技能試験を活用する予定であった時点(2019年秋)で、各大学がその成績を選抜でどのように使うつもりであったかを、国立・公立・私立別に集計し、その結果を模式図(イメージ)で表わしたものです。

英語民間4技能試験の活用パターン(2019年秋時点)

出典元:弊社調べ

英語の外部試験の利用法としては、まずは「受検を出願の要件とするか、どうか」という観点が重要になります。要件とする大学の場合はいずれかの外部試験を受験し、大学が定める成績レベルをクリアしておくことが前提条件となるからです。(図の左右の軸)

もう一つの重要な観点は、「外部試験の成績によって、合格に有利になったり不利になったりするか」という点です。外部試験が一定の成績レベルを超えた場合に入試成績に得点が加点されるのであれば、合格に有利になります。逆に加点しない場合には、一定の成績レベルを超えることだけが目標となります。(図の上下の軸)

この図から読み取れる各大学の傾向は、以下のようになります。

  • 国立大学は「要件」とし「加点はしない」という出願条件(必須受験)として利用する大学が多い
  • 私立大学は「受験を要件とはしない」が「受験していれば加点することがある」といった加点条件(任意受験)として利用する大学が多い
  • 公立大学は両者の中間的な利用法で、やや私立寄りの立場が多い

もし今後は前記のような活用法になるとするならば、受験にともなう経済的負担や経済的格差が今回の導入延期の大きな原因となったことも考え合わせると、大学が自前で4技能試験を実施できるところ以外は受験を必須とするのではなく、ほとんどの大学が私立大学型の利用法(つまり、受験をしていれば有利になることがあるという方法)になる可能性があります。

文科省が当初期待していた「すべての受験生に英語4技能試験を課すことで、英語教育の改革を強く推進する」という思惑からはかなり遠のくことになりますが、現状としてはこのあたりが妥協点になることが予想されます。

あとは文科省が将来に向けて、大学入試センターなどの独自機関が入試専用の4技能試験を開発・実施する方向を選択するかどうかが問題となるでしょう。

そもそも大学入試のためだけの英語4技能力でよいのか?

これまで述べてきたことはあくまでも予想に過ぎませんが、大学入試としては現状に近いものに戻るということで安心するのも、また少し違うと思います。大学入試で英語4技能試験を課すという考え方は、そもそも「世の中で必要になるから」というところから始まったことであり、「大学入試で必要かどうか」は本質的な問題ではないからです。

とは言え、大学入試を控えた受験生にとっては「受験勉強でいっぱいいっぱいで、世の中で英語が必要になるからなんて考える余裕がない!」と思うかもしれません。

しかし、大学入試では何とか問題を回避できたとしても、その先に待ち受ける長い職業生活や人生で不利になったり困るようなことがあったら、その方がずっと大きな問題です。

ですから、これから大学入試に臨む皆さんには、大学入試という直前の枠組みにとらわれることなく、より長い目で英語との関係をどうしていくのかを考えるチャンスが与えられたと考えてほしいのです。

そのような観点から英語4技能を考えることができるようになれば、「どうせなら、英語に関する努力を大学入試でも生かしてみようか」と大学入試にも前向きになれるのではないでしょうか。

まとめ

シリーズ4回でお送りしてきた「大学入試『英語4技能試験』のゆくえは?」ですが、現時点で国の方針が決まっていない以上、明確な答えをお伝えすることができません。

「大学入試のあり方検討会議」は今後も続きます。先に述べたように、その結果は2024年度からの大学入試に反映します。そして、それにとどまらず、これからの日本の英語教育にも大きな影響を与えるでしょう。(※)

英語民間4技能試験を「受けておいた方が有利になる」ことを踏まえた上で、皆さんが大学入学後、英語を使ってどのような人生を歩んでいきたいか、今一度考えてみてください。このような遠近取り混ぜた視点で、この会議の議論にこれからも注目していきたいです。


※前回の記事で当面予想される4技能試験の取り扱い方法について述べましたが、そのすぐ後で(8月18日)、注目される提言が発表されました。内閣府の特別な機関として設置され、政府に対して政策提言も行う日本学術会議が「大学入試における英語試験のあり方についての提言」を公表しました。

提言の内容:
「大学入試のあり方検討会議」で議論が進められていることを念頭に、
①「書く」「話す」能力の計測は大学入学共通テストの枠組みに含めず、各大学が必要に応じてそれぞれの形式で実施する
②民間試験の活用は各大学の判断に委ねる
③「大学入試のありかたに関する検討会議」においては、高校・大学の英語教育にかかわる当事者の意見を反映させて検討を行う

また、センター試験の評価を行い、それを踏まえて共通テストの英語試験の継続実施を検討する、というものです。奇しくも、前回の記事で述べた予想に近い内容です。なお、同会議は2016年11月にも、文科省が推進している英語教育に関して修正を求める提言をしています。

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