中国人に冷たい水はNG!?横手尚子氏の「世界に通ずるおもてなし」

英語マナー講師、横手尚子氏

インタビュー後半では、世界各国のお客様をおもてなししてきた横手さんが経験された、海外の人を接客した際の面白エピソードや、国によって異なる一風変わった文化の紹介、日本人が海外のお客様を接客する際に気をつけるべき点をお聞きしました。

マナー講師として活躍する中で、日本人が考えるマナーと外国人が考えるマナーの違いを教えてください。

日本では「相手を中心」に置いて、「相手」の気持ちを損なわないようにするスタイルが基本ですよね。ともすれば、それが最大限の配慮や過剰な対応になってしまいがちです。しかし、フラットな人間関係を基本とする外国人、特に欧米人とはそこが大きく違っています。
まずは「日本流のおもてなし」が押し付けにならないようにしながら、いくつかの工夫をするとうまくいくと思います。現に、アメリカ人の友人たちから、「日本のおもてなし」は“too much”だと言われたことがあります。日本流のおもてなしを必要以上に押し付けないことが大切だと考えています。

日本ではマナーが良いとされている行為が、海外ではそうでないことがあれば教えてください。

1.プライベートの話をすることについて

相手に親近感を抱いてもらうために、プライベートなことまで洗いざらい話す人が「誠実だ」と捉える方も多いかと思いますが、これは国際的な場ではやめておくのがベターです。プライベートの基準は国によって大きく異なり、誠意を持って話したつもりが、逆に失礼で非常識だと思われる恐れがあるからです。「この人はプライバシーに関わることや秘密ごともすぐに人に話してしまうのではないか」と信用を失ってしまったら逆効果です。

CA時代、JALでは機内でのちょっとした世間話のことを「スポットカンバーセーション」と呼び、お客様とのコミュニケーションをはかるためのサービスとしており、話題選びに気をつけるようにしていました。たとえば、これは一般的に日本でも同じですが、プライベートな話題(政治・宗教・年齢・家族関係・子供の有無・お金など)は出さないようにしました。この時学んだのは「血液型」や「仕事」についても話に出さない方がよい、ということです。

日本人は血液型や仕事についての質問はわりとナチュラルだと思っていますが、外国の方にとって血液型はプライベートなことですし、血液型占いなどを信じているのは世界的には少数派のようです。また、仕事に関しては、おおよその年収を推測できてしまうため、いきなり尋ねるのは失礼にあたります。

もちろん、これらが当てはまらないケースもあります。若い世代は我々の世代に比べてプライベートなこともあまり気にせず話したりもしますし、全般的にアメリカ人はイギリス人に比べて寛容であるとも思います。繊細な話題はあくまで相手の出方に応じる、というスタイルを崩さないことが大切です。

話の流れからプライベートな質問をする場合は ”May I ask you something?(ちょっとお聞きしてもよいでしょうか)”などクッション言葉を添えてから、”If you don’t mind my asking, how long have you been married?(失礼ですが、ご結婚してどれくらいですか?)”や”May I ask, do you have any children?(恐れ入りますがが、お子様はいらっしゃいますか?)”などという聞き方をすれば、丁寧な印象を与えることができます。

私の経験上、まずその人が「どこの国の出身か」という無難な話題から尋ねて、その国の料理や観光スポットなどの話に持っていくと話が盛り上がることが多かったです。相手の出身地で1番美味しいものは何かと尋ねると、多くのお客様は顔が緩んで笑顔で話してくれたのがとても良い思い出になっています。やはり食への興味は万国共通ですね。自国をほめられて「嫌だ」という人は少ないでしょうから!

2.相手の外見の話をすることについて

日本人は「すこし太ったね」など身体的なことをすぐ口に出しますが、これも大変失礼なので気をつけましょう。

さらに、日本では一般的に「鼻が高いこと」や「顔が小さいこと」が褒め言葉になっていますが、欧米では鼻の高さにコンプレックスを感じていたり、「顔が小さい=脳みそが少ない」という意味で捉えられてしまうこともあります。美の基準や価値観は国によって違うので気をつけた方がよいと思います。

3.接待時などのお酒の席について

日本人は接待や会食・飲み会などの席で、お酒を沢山飲む傾向があります。その際に気をつけていただきたいのは、本人が飲みたいと思っている量(適量)以上に飲まなければならないと相手に感じさせないことです(アルコールハラスメント)。特に海外出張で時差ボケが残っている際は、飲ませすぎないようにしてください。

日本では相手にお代わりを注ぐことが礼儀になっていますが、欧米人はあなたにお代わりを注いでもらおうなどとは思ってもいません(期待していません)。これもアルコールハラスメントの原因になりますので、注意が必要です。外国人にお酌など日本人の慣習を説明するのは良いと思いますが、本人が欲する以上に飲ませるのは良いことではありません。欧米の個人主義を念頭においておくとよいかと思います。

また欧米では、公共の場で女性が男性にお酒を注ぐのはマナー違反です。パーティーなどの席で何度か見かけたことがありますが、女性からお酌はしないように気をつけてください。

これは韓国人の留学生から聞いた話ですが、韓国では儒教が根づいているため、目上の方に敬意を払うことが習慣づいています。目上の人の方を向いてお酒を飲むのは無礼に当たるので、顔を少し逸らして飲み、食事中は年長者のペースに合わせて敬いながら食べるそうです。家での食事も、父親が食べ始めるまで他の人は食事を口にしないそうです。

このように、外国人とお酒を飲む時には気をつけるべき点が沢山あります。より良い関係を築く上でも、マナーの知識は自分を守ってくれる大きな武器になるのです。

海外のお客様をおもてなしする際、興味深かったエピソードやトラブルなどがあれば教えてください。

横手さんインタビュー

ここでは、接待でのエピソード、機内での異文化エピソード、留学生から聞いたエピソードの3つのエピソードについてお話しさせていただきます。

中国人の接待でのエピソード

中国からのお客様をラーメン屋さんにお連れした時「日本の飲み水は冷たすぎて飲めない」と言われて驚きました。中国では冷たいものは体によくないとして、真夏でも水は常温で飲むそうです。「熱々のラーメンに氷の入った水の組み合わせは信じられない。頭が痛くなります。」と顔をしかめて話していました。日本人には当然で、最高においしく感じられるものでも、文化が違えば味覚も変わるということです。

なお、中国人のお客さまを中華料理店にお連れする際は、その人がどこの出身かによって、食べ慣れた料理が違うので注意が必要です。中国料理では、「山東」「江蘇」「浙江」「安徽」「福建」「広東」「湖南」「四川」を八大菜系(料理)と呼び、区分するそうです。

ベトナム人の接待でのエピソード

日本では食卓でお取り分けする時に「おとり箸」を使いますが、ベトナムでは各自直箸でつついて食べるのが一般的だと教わり、びっくりしました。また、麺類を食べる時に丼に口をつけてお汁(スープ)を飲むことはマナー違反なので、必ずスプーンで飲むそうです。

機内のドリンクサービスは路線や客層によってサービスの違いがある

私がCAの頃は、ホノルル線はソフトドリンクが多めに、東京、ロス、サンパウロ線(今はない)は飲料サービス用の砂糖が多めに搭載されていました。ブラジル人がコーヒーにたくさん砂糖を入れて飲む人が多いからです。また、中国人のお客様が多い時には、コーラ用にレモンスライスが多めに搭載されていました。

機内での異文化エピソード、インド人はYESの時に首を横に振る

「コーヒーのお代わりはいかがですか?」と伺ったとき、首を横に振られました。慣習を理解をせず対応しなかったら、クレームを受けた新人がいました。

印象的だった日系ブラジル人

サンパウロ→ロサンゼルス→東京線(今は無い)に搭乗された日系ブラジル人のお客さまは、心打たれるほど慎ましやかでした。丸一日を超える移動時間中、一度も座席の背を倒さず、じっとされている方も多かったです。日本の上空にかかると、背筋を伸ばし、窓の外を見ながら故国の姿に涙をためていらっしゃる方もいらして感動したこともあります。

ケニアの留学生の話

日本人特有の「いえいえ」と顔の前で手を横に振るジェスチャーが、「あなたは匂う」とか「臭い」という意味かと思い、ショックを受けたことがあるそうです。

家族が遊牧民のモンゴル人留学生の話

羊が主食(羊を大きな鍋で茹で、塩のみで食べる)で、羊以外には牛とジャガイモと米のみ食べられるそうです。野菜は「何の栄養もないから食べても無駄だ」といっていました。

タイの留学生の話

タイでは頭は神様が宿る神聖な部分なので、子供の頭を撫でてはいけません。もし頭を殴ったりでもしたら大きな喧嘩に発展するそうです。

日本人が海外の人をおもてなしする際、どのようなことを心がけるべきですか?

「相手に何をしたら喜ばれるか?」ということを追求する前に、まずは「相手が嫌がる事は何か?」を知り(事前に調べる)、それを避ける事が摩擦やトラブルを少なくする第1歩だと思います。

私たちが想像する以上に、国や民族によってジェスチャーの意味が異なる場合は多く、宗教や風習の理由から食への気配りも必要になってきます。海外に行く時や、大切なお客さまを海外からお迎えするときには、相手の国の文化・風習を事前に調べておくことがとても大切なマナーです。

ジェスチャーやボディランゲージの意味の違い

【例1】ギリシャでは「パー」は相手の顔に泥を塗るという意味、「チョキ」は相手を侮辱する意味になるのでしてはいけない。

【例2】日本では手の平を下向きにして手招きをすると「こっちにおいで」という意味だが、アメリカでは「あっちに行って」の意味になる。

【例3】指でつくるOKサインは、ヨーロッパの一部や中東、南米ではタブー。フランスでは役立たずや無能を、南米ではお尻の穴を意味し、ともに相手を侮辱するサインとなる。

最後にメッセージをお願いします!

中国人に冷たい水はNG!?横手尚子氏の「世界に通ずるおもてなし」

国によって文化・風習やマナーの違いは驚くほどたくさんあります。また、時の経過とともにそれらは確実に変化もしてゆきます。ここでご紹介させて頂いた事例も、数年たてば通用しなくなっているかもしれません。ですから、自分が正しく、相手がおかしいという発想は禁物です。あくまで相手の立場になって、欲していることを察していきたいものですね。「おもてなし」とはそういうことではないでしょうか。

“Walk a mile in their shoes.”(相手の靴を履いて1マイル歩いてみよう)
という表現が私は大好きで、学生たちにもいつも言っているんです。
相手の靴を履いて長く歩いてみるということは、まさにそのようなおもてなしの心を表現していると思うんです。

日本流のおもてなしの心を大事にしつつ、多様な文化、そしてお客様を含めた1人ひとりの個人に対し、こちらから興味を持っていくことがやはり大事だと感じます。 そうすることによって共通点も違いも見えてきますね。 そんな興味と想像力を生かしていけば、“Too much”(やり過ぎ)というお客様の感想も、“Just perfect”(絶妙)!!に変わっていくと思っています。違いの先には共通点という笑顔の扉が開いています。

単に英語が堪能であるだけでなく、お互いの国の文化(他国の文化と自国の文化両方)の理解に努めながら、コミュニケ−ションをはかることこそ、最高のマナーであると言えるでしょう。

“Let’s walk a mile in THIER shoes!!
”

取材後記

東京オリンピックを契機に日本の“おもてなし”がクローズアップされていますが、今回のインタビューを通して、海外の方への“おもてなし”の考え方が大きく変わりました。日本で“おもてなし”というと、至れり尽くせりの対応が喜ばれると考えがちですが、文化や考え方や違う海外では「されて喜ぶこと」の基準が違うんですね。まずは相手のことを知ろうと努力すること。これこそが最大の“おもてなし”になるんですね。相手の国の文化や考え方を尊重して、ぜひあなた流の“おもてなし”をしてください!

本記事では、世界に通じるマナーとコミュニケーションについての一部を紹介しましたが、詳しくはコチラの横手さんの著書をご覧ください。

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