NHK「基礎英語3」佐藤久美子に聞く、これからの英語指導

佐藤久美子教授佐藤久美子
玉川大学大学院教育学研究科教授。NHKラジオ「基礎英語3」講師。乳幼児の言語獲得・発達の研究を基づいた英語教育を提案し、英語指導者への教育に従事している。著書に『こうすれば教えられる小学校の英語』(朝日出版社)など多数。

 

今回はそんな佐藤先生に、これからの英語指導のあり方についてお話を伺った。

-中学・高校の英語の授業を英語で行うことについて、どのようにお考えですか?

これからもし英語で授業を行うようになれば、単語は指導要領に捉われないで、たくさん使う機会を増やせば良いと思います。NHKの「基礎英語3」では、文法は中学校の教科書に沿っていますが、単語は教科書よりもはるかに多く使われています。学校の教科書内の英単語だけでは、特に日常生活におけるあらゆることを伝えられません。また一人一人の趣味や個性は異なりますので、例えば「I like apples.」という例文があるとき、必ず「apples」を使う必要はないのです。このように、自然に親しむ単語の個数に制限をかけないということが重要です。

また、同じ単語に触れる機会をもっと増やすべきだとも思います。ネイティブの子どもが単語を覚えるとき、とても馴染みのある単語でも10回は聞かないと覚えることはできません。馴染みの薄い単語は、さらに多くの回数を聞かなくてはなりません。日本の学校では1年生の新出単語、2年生の新出単語と決められています。実は、何度も同じ単語に触れることで、生徒たちも「多くの場面で単語が使える」と感じることができます。このように同じ単語に触れる機会を増やすことも大切です。

なぜ多くの単語に触れることが重要なのでしょうか?

それは自分のことを英語で話す必要があるからです。生徒全員「I like apples.」ということはありえません。そのような教科書を丸暗記しただけの表現は、他人の英語を話しているに過ぎないのです。英語は伝えるためのツールですから、個人が自分の経験や思いを伝える内容を話さなければ、他者に伝えたいというモチベーションは高まりません。

暗記が悪いという意味ではありません。暗記して終了、つまり暗記自体が目的になることがよくないのです。過去形や現在進行形など新しい文法項目は特定の例文で覚えたのち、そこから自分が本当に伝えない内容を表現するように、アレンジしていくべきなのです。

多くの単語に触れ、個人のレベルに持っていければ、生徒たちは人前で話すようになるのでしょうか?

人前で話すようになるためには、訓練が必要だと思います。日本の小中学校では、プレゼンテーションをする授業や、大勢の人の前で話す授業が非常に少ないです。アメリカやイギリスでは、SHOW and TELLのような授業があります。そこでは、大勢の人の前で話すことを訓練しているのです。日本人も、まずは日本語で良いので、人前で話す訓練をしなくてはなりません。なるべく小学校低学年のうちから人前で話す訓練をすることで、恥ずかしさが減り、より積極的に、自信を持って発表することができるようになります。そして中学校では、英語でスピーチをするというように、小学生で行ってきた方法を踏襲すべきだと思います。

単語を例にお話しましたが、実は、表現や文の構造も同じです。定型表現として文をそのまま覚え、いろいろな場面で使ってみる練習と、文法構造をしっかりと抑えて応用していく学習方略を共に利用することが大切です。定型表現は、応答表現も合わせて覚えていけば、それが使える場面に遭遇した時に、会話することが容易になります。

-実際の授業で、英語で発表する機会を作れるのでしょうか?

たしかに、先生が1人で生徒が30人ほどいるような教室で、一人一人に発表させるのは時間がかかります。しかし、たとえばCDで聞いた内容を、一人一文でもいいので発表させていく、つまりreproduction(再生)させたり、一枚の絵を掲げて気づいたことを発表させたりしていくこともできます。

オンライン英会話ではどうでしょうか?

オンライン英会話は、基本的にはマンツーマンです。となると生徒は、それだけでは人前で堂々と話すようにはならないと思います。やはり大勢の人の前で話さないと自信は持てません。だからオンライン英会話はあくまでpracticeのフェーズで利用されるべきです。実際にオンライン英会話で学んでいる大人たちも、「仕事で英語を使いたい」などと目的がありますよね。それと同じで、最終的には大勢の前で話すことを目的として、オンライン英会話を利用すれば良いと思います。

佐藤久美子教授02

佐藤先生は玉川大学大学院教育学研究科で、将来英語の先生となる方へ指導をしている。

佐藤先生が考える効果的な指導法を教えてください。

とにかく生徒とインタラクションをする授業が必要だと思います。たとえば先生が英語で返答するという方法です。生徒に、Do you like dogs?と聞き、生徒が「うん、白い犬が好き。」と答えたら、Oh, you like white dogs.というように、生徒の発言に先生は英語で応えます。そうすると、生徒はYes, white dogs. と反復してくれます。子供たちは、反復は得意なのです。一方的に生徒に教える授業ではなく、インタラクションに時間を割いてもらいたいです。 これは少し逆説的なのですが、授業で先生たちは「教えようとしないこと」が大切です。知識を与えようとすることだけにこだわってはいけません。生徒が話したいことを引き出すよう努力するのです。先生は授業中に喋りすぎないようにし、生徒が喋る機会をたくさん設けるべきなのです。

最終的にはテストの点数が上がるかどうかを多くの先生たちは気にしていると思うのですが、教え込まない授業でテストの点数は上がるのでしょうか?

現在、私は英語の先生方の研修で指導を行っておりますが、インタラクティブな授業の必要性を述べると、たしかにテストの点数はどう変化するのか気にする方もいます。しかし、自分の話したいことを引き出すような、インタラクティブな授業で学んだ生徒は、しっかりと覚えなくてはならないことを覚えるでしょう。なぜなら、たくさん英語表現や英単語を知っていれば、自分の言いたいことが広がると実感しているからです。生徒の話したいという動機を高めることが、指導の第一歩です。

最後に英語学習者の方へメッセージをお願いします。

とにかく暗記しようと思わず、たくさん聞いて、たくさん話して、たくさん読んで英語に触れる時間を少しでも多くとってください。そのうちに必ずできるようになりますので、自信を持って勉強を続けてみてください。

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