「大学入試改革 -海外と日本の現場から-」を読む時間がない先生のための要約記事

※本記事は2016年8月時点に公開されたものです。

2020年にセンター試験が廃止され、40年ぶりに大学入試改革が起きます。

今回はその「改革」を不安に思う高校生の皆様、保護者様、教育関係者の皆様におすすめしたい本を紹介させていただきます。

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「大学入試改革 -海外と日本の現場から-」
2016年7月出版。読売新聞社教育部著。

2020年の大学入試改革に向けて、海外の大学や日本の大学へ赴き、大学入試の可能性を検証したものです。2014~16年の読売新聞の連載記事などをまとめたものですが、大幅に加筆が行われており、最新事情を知ることが出来ます。

実際に、ハーバード大学を含む、米国のトップ大学5校へ取材やオープンキャンパスの見学を行い、入試広報者だけでなくアメリカの高校生に対しても取材を行っています。また韓国・台湾・中国といったアジア圏の大学の入試事情も取り上げており、グローバル化が進む現状に対し、日本の入試はどう改革していくべきかを問いています。勿論、日本の大学へも取材を行っており、2020年を待たずして、既に現場で起きている改革について言及しています。テーマとしては少し難しいものですが、写真やデータを用いて紹介されています。


以下では、簡単に「大学入試改革」に記載されていた内容を元に、世界の大学の入試ではどういった取り組みがなされているのか、日本の入試はどのように変化するのか、ご紹介したいと思います。

アメリカの大学入試

アイビー・リーグなどの米国の有力大学目指す場合、SATやATCの成績は一定以上の高得点を取っているのが当たり前と言われる。その上で重視されるのが、一人ひとりの受験者入学後に期待出来る大学への「貢献」、そして、大学にとっての「学生の多様性」だという。

皆さんはSATやACTというアメリカの大学入試に用いられる試験をご存知でしょうか?

アメリカの大学に出願する高校生のための、学力テストです。年に7回受験する機会があり、その最高得点を大学に提出する形式であるという点です。

日本では本番1回の試験における1点の違いが合否に大きな影響を及ぼしますが、アメリカではある一定の点数を超えていれば、あとはボランティア活動などの「社会に貢献した実績」が合否の材料として重視されます。逆に、SATの得点が非常に高くても、他に目立った能力がなければ大学への貢献が期待できないとみなされ、合格は難しいといわれます。

つまり、アメリカの大学入試試験においては試験の得点や学校の成績ではなく、志願者が何に夢中になり、何を学んだかなどを総合的判断して合否を決定しているということです。

現在日本のトップである東京大学の世界ランキングは43位、2020年に改革される入試方法は、世界のトップを行くアメリカの大学の専攻方法を強く意識しているとのことです。


韓国・台湾などの東アジア諸国の大学入試

日本を含む東アジア地域では、中国の科挙の流れなのか、伝統的に筆記試験重視の傾向が強いと言う。それが近年は、米国の大学への進学者が増えた影響やグローバル化への対応を迫られていることもあり、急速に大学入試の改革が進みつつある。

 かつては日本のセンター試験などをモデルにしていた韓国・台湾では、既にアメリカの入試制度をモデルとした改革が行われています。その改革の根底には、「大学入試における公平性」が問われています。

今まで日本と同様に「一発試験が一番公平だ」という考えを持っていた諸国ですが、学習への熱意や地域格差、生まれた環境など、点数では計れない点においても考慮することが「真の公平性」ではないのか、といった考えにシフトしてきているようです。

本書で韓国や台湾取で材を行った記者は、

韓国、台湾でも制度の見直しが着々と進む様子を目の当たりにすると、日本の大学入試がグローバル社会で取り残されるのではないかという危機感が募る。

と語っています。

2020年に文科省によって行われる大学入試試験の変革は、そもそも「グローバル社会に通用する人材育成を」という経済界からの声によって検討が始まったものです。今後の入試改革のキーワードは「グローバル化」かもしれませんね。

「大学入試が変われば解決する(グローバル化する)」とまでは言えませんが、高校と大学の教育を変える突破口になると言われています。


2020年日本の入試はどう変わる?

大学入学希望者学力評価テスト。舌を噛みそうな新テストの名称は、まだ仮のものだ。導入の目的は、グローバル社会で求められる思考力、判断力、表現力を測り、暗記中心で「知識偏重」だった入試を変えて、「詰め込み型」とされてきた高校教育も帰ること-とされている。

この新テスト、仮称「大学入学希望者学力評価テスト」は、試験方式が変化するだけではなく、各大学にどのように新テストを入試に活用してもらうかという点でも変化する。以上2つの変化についての詳細は下記をご覧ください。

【試験方式の変化】

マークシート方式に加えて、国語と数学の試験で「短文記述式」を導入。マークシート方式も複数回答を選ぶものを問題を導入し、思考力や理解度を測る。

英語の試験については、「話す -Speaking-」「聞く -listening-」「読む -Reading-」「書く -Writing-」の4技能で実践的な英語力を測る。また、英語民間4技能試験の導入も推奨している。

新テストの記述式問題イメージ例
(出典:文部科学省高大接続システム改革会議(第9回) 配付資料より)

【各大学の新テスト活用方法】

「一点刻み」の試験から脱却することで「脱・一発勝負」を目指した改革である為、試験結果を点数で表示するのではなく、成績のレベルに応じた段階別表示を提言している。

しかしこの方法については選抜の難しさから大学の反発が強く、当分の間は現在のセンター入試と同様に一点刻みの素点が基本となる見通し。

以上2点以外にも、試験の複数回実施や、試験をコンピューターで行うといった改革を文科省は目指しています。現在は反対意見が強く実現には及んでいませんが、2020年以降の改革で更なる改革が推し進められることが予想されますね。

また、今回の改革では、高校生の基礎的な学力を測る「高校基礎学力テスト」の実施も組み込まれています。この試験の成績は入試や就職に活用する目的ではなく、全体の学力底上げを目的としています。

世界で活躍出来る人材を育てるために、日本の教育全体の改革への大きな一歩を踏み出しています。


まとめ

「センター試験廃止!!」 「40年ぶりの入試改革!!」

このような言葉が飛び交い、多くの方が不安を抱えていることと思います。

しかし、2020年の改革が、「グローバル化社会に通用する人材」を育成するためのものであり、アメリカのトップ大学の入試制度をモデルとしていること。又、日本と似た入試制度を取っていた東アジア諸国の先駆けた改革を理解することで、おのずと今後どのように改革が行われていくのか、動向を理解することができるのではないでしょうか?

本書は海外大学だけでなく、日本の大学の情報もぎゅっと詰まった一冊です。

今後どのように改革が行われていくのか理解する一助になりうるかもしれません。
是非一度ご覧になってみてください。

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