英語4技能化は進んでいる?TOEIC®︎受験者動向から見える現状と今後の流れ

先日公表された“TOEIC® 2018 DATA & ANALYSIS”によると、2017年度にTOEIC®を国内で受験したのは、L&Rが2,481,000人、S&Wが38,000人(受験者数はともに概算)だった。

L&Rの受験者は前年をわずかに下回ったものの、S&Wについては前年から5,700人(率にして約18%)増加した。学校教育や大学入試が4技能化することが話題となっているが、社会人や大学生の受験者割合が非常に高いTOEIC®においても、実用性を重視する4技能化の流れは確かなものとなってきたようだ。

TOEIC®という試験

TOEIC®はTest Of English for International Communicationの略で、世界約160か国、年間約700万人が受験する国際コミュニケーション能力を測る英語検定試験です。意外に知られていないようですがこの試験は日本人が発案したもので、TOEFLを主催している世界最大の非営利テスト開発機関Educational Testing Service(ETS)に開発を依頼し、経団連と通産省の後押しも受けて1979年に開始しました(最初の受験者数は3,000名)。 

現在、L&R Test、S&W Test(SまたはW単独のTestもある)、そして初・中級者を対象とするTOEIC Bridge® Test の区分があります。受験方法としては、公開テストと団体特別受験(IPテスト)があり、多くの企業における海外赴任者の選抜や昇進・昇格基準、学校における推薦入試・単位認定基準の指標としてそのスコアが用いられているほか、英語研修や授業の効果測定、自己啓発の目安としても幅広く活用されています。

日本ではIIBC(一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会)が実施しています。(参照:IIBCホームページほか)


TOEIC®の受験者は?

TOEIC®を受験しているのは、どのような人か?2017年度の受験者データからは、下図のような現状が見えます。

( 図1 ) 受験者内訳 ー学生?社会人?

L&R Testについては学生と社会人がほぼ同数受験していますが、S&W Testは社会人の受験がやや多くなっています。

次に、学生の内訳を見てみましょう。

( 図2 ) 学校種別受験者内訳

 ※「高」には高専を、「大」には短大・大学院・専門学校を含む。

学生の大半は大学生(短大・大学院・専門学校生を含む)です。特に受験者数の多いL&R Testでは、約9割が大学生です。ただし、S&W Testについては高校生(高専生を含む)の割合が大きくなり、大学生は受験にやや消極的です。


4技能化は進んでいるのか?

冒頭でも触れたように、S&W Testの受験者は年々増加していますが、4技能化の流れはどれくらい進んでいるのでしょうか。

( 図3 ) S&W Test の受験割合

この図は、S&W Testが始まった2006年以降、TOEIC®において4技能を受験した割合を推定するために、L&R Test受験者数に対するS&W Test受験者の割合の変化を見たものです。グラフは確かに右上がりの傾向となっていて、4技能受験の割合が上昇していることがわかります。ただし、その割合は2017年度でも1.5%程度ですから必ずしも4技能を受験することが一般化しているとは言えない状態です。


今後の動向は?

TOEIC®において4技能を受験する割合がまだまだ少ない理由としては、次のようなことが考えられます。

① 受験者の半数近くを占める大学生が、S&W Testの受験に消極的なため。

② 受験者の約半数を占める社会人に求められている英語力に、職種によるばらつきがあるため。

まず、①についてですが、

大学においても英語教育の4技能化は重要課題として位置づけられ、これまでも様々な改善が試みられてきました。ただし、大学教育についてはその成果を測る統一的な調査はなく、改善は各大学に任されているのが現状です。大学によっては、「国際力」や「英語力」を大学のアピールポイントとして打ち出し、相応の対応に努めているところも見られますが、あくまで大学の努力目標や経営目標に過ぎません。

もうひとつ大学生の4技能受験を促す要因として考えられるのが企業の採用方針です。目まぐるしく進行する経済のグローバル化にともなって、多くの企業で英語を重視する動きが見られます。「社内All English」といった企業もあり、国際的な展開が課題となっている企業ではSpeakingや Writingといった実践的な英語力は必須です。ただし、日本の絶対的多数の企業ではそこまでの思い切った方針に転換できるわけではなく、また近年新卒採用が売り手市場となっていることと相まって、採用段階であまり厳しい条件を打ち出せないという事情もあります。

以上の背景を考えると、大学生の4技能受験が一般化するには、高校までの英語教育が4技能化してその成果が表れてくるまで、もう少し時間がかかりそうです。

次に②に関しては、2017年度TOEIC®を受験した社会人のデータが参考になります。

( 図4 ) 社会人の業種別受験者数

上図はどのような職種の社会人がそれぞれのTestを何人受験したのかを、受験者数10位まで(それ以下は、「その他合計」に合算)図示したものです。

業種ごとで就業者数自体が違いますので、単純に人数で比較することはできませんが、左側のL&R Test受験者に比べて右側のS&W Test受験者が少ない職種ではそれほど実践力は求められていないのに対して、その逆の場合はより実践力が求められている職種といえます。例えば、「サービス」や「金融」は現在でも実践力重視が明瞭です。一方、「電機」「車両」「化学」などでは英語力自体は重要ですが、どちらかと言えばReading力が中心となっているようです。

「サービス」はまさに対人関係に根差した業種ですから実践的なコミュニケーション能力が不可欠となるのは当然ですが、「金融」も現在ではリアルタイムな(というよりも、ITによる超高速の)取り引きに重きをおく職種となっているのがその背景にありそうです。

日本の重要な産業である「電機」や「車両」(自動車・船舶・鉄道車両等を含む)、「化学」に関しては、営業や接客を除く製造部門では主に技術書を介したコミュニケーションが中心となるため、それほど実践力にこだわらないのかもしれません。

以上の分析からは、次のことがわかります。

① 社会の様々な分野において、英語力の有無は個人の可能性を広げる上で重要な要因となってきている。

② ただし、どのような英語力かは職種や担当する業務内容によって異なる。

③ 英語の実践力を求める傾向は、今後経済のグローバル化が進展するとともにますます高まることが予想され、現在のニーズを超えた英語力が今後必要となる可能性がある。

④ 日本の学校における英語教育もこの予測に立って4技能化を進めているが、現状社会との接点に立つ大学生がその必要性を十分に認識し、それに備えているとはいえない。

やはり、④の点が気になりますね。ただし、これについても近く実施される大学入試の改革が、大学生の英語力を大きく変える可能性があります。

2021年度入学生の選抜から、大学入試が大きく変わることはこれまで多くのコラムでご説明してきました。その中のひとつに、「大学入試英語の4技能化」があります。新しい大学入試の詳細はまだ明らかではありませんが(2018年度中に各大学から詳細が発表される予定です)、私立大学でも積極的に英語の4技能試験が行われるようになれば、一気に大学生の英語事情も変わる可能性があります。

【図2】でS&W Testを受験する高校生が相対的に見て多くなっていたのも、この変化を敏感に感じ取っている表れとも考えられます。

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