大学入試「英語4技能試験」のゆくえは?2024年に向けた多様な意見

2021年1月実施の大学入学共通テストにおける英語民間4技能試験の導入は延期されました。とは言え、大学入試全体としては英語の4技能化が進められるため、今後も入試改革に関する情報収拾が必要です。全4回でお届けする「大学入試『英語4技能試験』のゆくえは?」コラムでは、なぜ英語4技能試験に引き続き注目するべきか、その背景をご紹介します。

第2回となる本記事では、文部科学省が立ち上げた「大学入試のあり方検討会議」でどのようなディスカッションがされているかをご紹介します。大学入試における英語4技能試験のゆくえを探ってみましょう。

大学入試のあり方検討会議

文部科学省は大学入学共通テストに関するこれまでの経緯を検証するとともに、望ましい大学入試について検討する「大学入試のあり方検討会議」を立ち上げました。

検討会議は2020年1月15日から始まり、7月までに計12回、月1~2回のペースで行われています。この種の検討会としてはかなりのハイペースでの開催となっていますが、それも時間が限られているためです。

参加メンバー

検討会議には、以下のようなメンバーが委員として参加しています。

  • 教育の研究者
  • 公立・私立高校の校長代表
  • PTA代表
  • 国立・公立・私立大学の学長代表
  • 一般企業代表   など18人の委員
  • 大学入試センターの理事長(オブザーバーとして)

回によっては外部の団体や有識者として、大学教授、関連の研究所、予備校・塾、教育委員会、高校教員、高校生など幅広い関係者からヒアリング(意見聴取)を行っています。多様な分野の関係者がいるため、会議では多種多彩な意見が述べられます。

4つの議題

検討会議は当初、以下の4点について検討する会議としてスタートしました。

  1. 英語4技能評価のあり方
  2. 記述式出題のあり方
  3. 経済的な状況や居住地域、障害の有無等にかかわらず、安心して試験を受けられる配慮
  4. その他大学入試の望ましいあり方

これまでに12回開催されている会議では、主に以下の内容が話し合われました。

第1~2回:経緯の振り返り、大学入試に対する各委員のとらえ方と視点の共有
第3~6回:各委員が所属する団体を代表する形で意見交換
第7回以降:外部の団体や関係者からのヒアリング

4つの論点について、どのような意見が出たのでしょうか。本記事では主な意見を手掛かりに議論を整理しましたので、見ていきましょう。

「大学入試のあり方検討会議」で出た意見まとめ

各委員や関係者の意見を見ると、上記の論点にとどまりません。議論の進め方にも疑問が示されます。

・相当の時間をかけて検討してきたことをなしにしてゼロから議論をやり直すのは現実的ではない。

今回の混乱の原因については、以下のような意見が出ています。

・実施ありきからスタートしたことが今回の混乱の原因のひとつであり、前提部分から見直していく必要がある。

・英語民間4技能試験の活用については、決まっていないことがあまりにも多過ぎた。

・出願資格として課す大学が次々に出てきたことにより、英語民間4技能試験の成績を持っていないと受験できない事態になったことが受験生に不安を与えた。

・英語民間4技能試験でしたいこととできることは別。できることとできないことを明確にすべきだった。

このように、当初から制度の全体像が具体性を欠き、明確ではなかったことが混乱の大きな原因だったという意見が多数ありました。総じて「準備が足りなかった」「進め方が乱暴だった」というのが大方の見方です。

当初想定されていたシステムに関しては、さまざまな観点から疑問の声があがっています。まず、異なる性格の英語民間4技能試験を複数併用する問題点があげられています。

・目的や品質が異なる複数の英語民間4技能試験を共通試験として活用することは、テストの公平性や信頼性の観点から不適切。

・異なる種類のテストがCEFRの対照表の下で一緒にされており、妥当性は疑問。

・基準同士の比較だと形式的な作業にならざるを得ず、『逸脱するものではない』程度の確認にしかならないため、学習指導要領と整合性があると言えるのかは疑問。

試験の運用面での改善を求める声もあがっています。

・英語民間4技能試験を活用する場合には、最低限現状のセンター試験と同程度のアクセスを確保することが必要。

・英語力はもともと一定の幅で評価するものであるため、英語民間4技能試験は『入試の受験資格』として扱う形が一番適している。

・利用できる英語民間4技能試験の種類と求められるレベルについては、高2の4月頃までに発表されないと、受験生は対応できない。

さらに、英語4技能試験の実施方法については抜本的な見直し案も示されています。

・共通テストの枠組で行うのであれば、テストの公平性や信頼性を担保するため、試験問題の作成は大学入試センターが一括して行い、一定の試験料で統一の試験を受けられるようにすべき。

大学入試センターの見解

「英語民間4技能試験ではなく大学入試センターが実施すべき」という考え方は早くからありました。これに対して同センターは従来の見解を繰り返しています。

・センターが実施するためには、費用、人員・場所の確保、評価(海外でも通用する資格試験とするべき)が課題。1日で50万人のスピーキング、ライティングテストを実施すること、また年複数回テストを実施し、成績をすぐに提供することは不可能。

大学入試センターが実施することが難しいとなれば、次のような意見も出てくることになります。

・共通試験はシンプルな内容・機能として、個別試験の役割をより大きくするのが現状に即している。共通試験に多くの内容・機能を盛り込むのは難しい。

ただしこの意見は今回の入試改革のコンセプトに抵触しています。これからの子どもたちには「英語の運用力」や「思考力・判断力・表現力」が共通して必要となるので、大学入試でも共通して課すことでそのような力を高めていこう、というのが入試改革の基本的なコンセプトだからです。

国立・私立大学の見解

国立大学は受験者に一律に4技能評価を課す必要性を述べています。

・国立大学協会としては、入学後に英語4技能の教育を受けるうえで、スタートラインで一定のレベルが必要だという立場。

対して私立大学は、これまで通り学生募集にメリットがあるかどうかが活用の判断ポイントであり、受験者に一律に4技能を課すことには消極的な姿勢を示しています。

・私立大ではセンター試験を経て入学する者は一部であり、共通テストで英語民間4技能試験を活用する必要性を感じない。

・私立大としては、さまざまな入試制度の中で各大学の建学理念やアドミッションポリシーに合わせて、良いものを選択して組み込むという立場に変更はない。

大学側も英語4技能教育そのものは推進するという点においてはほぼ共通の認識があるものの、具体的な選抜方法については考え方にズレが存在します。そこから、次のような意見が出てきます。

・画一的な仕組を作るよりは、多様な利用を促進し、各大学が責任をもって利用する形とすべき。

さらに、形式的な4技能重視を疑問視する意見まで出てきます。

・英語を必要とする企業というのは、上場企業や大企業に偏っており、非上場企業や中小企業では状況が異なるのではないか。

・スピーキングの力がなければ、大学には相応しくないとは思わない。

・大学で求められるのはまずリーディング、次にライティングである。

このように、多くの点で関係者の意見や見解の対立が続いているのが現状です。

出典元:文部科学省「大学入試のあり方に関する検討会議」

まとめ

2024年度に延期された共通テストにおける英語4技能試験の導入については、2021年の夏頃までに予告をしなければなりません。関係者の見解の対立が続いている中、大学入試を控えた中高生の皆さんは不安であることとお察しいたします。

そこで次回は、共通テストにおける英語4技能試験のゆくえについて、実現可能な方向性をリストアップしていきます。こちらをクリック▼

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